支援の輪が救った命
Jul 14, 2022
一食平和基金と特定非営利活動法人ジェンとの合同事業は、紛争や災害で厳しい状況にある方々が、再び普通の暮らしを取り戻そうとする営みを支えることを目的としています。2021年も、世界各地で約118,000人に及ぶ方々を支えさせていただきました。
アフガニスタンでは以前から、困窮している上に衛生的な水を手に入れられず、いつも体調を壊していた方々を、この事業によって支えてきました。2021年8月のタリバン政権発足後の経済制裁によって、アフガニスタン国内の資金が回らなくなり、公務員への給与も支払われず、多くの企業も賃金を支払うことが困難になり、ぎりぎりの暮らしをしていた方々が食べるのにも窮する事態に陥りました。そこで、これまでの支援活動に加えて、緊急食糧配布によって、最も厳しい状況にある方々を支えさせていただきました。
パキスタンでも、反政府勢力掃討作戦で家を追われて国内避難民となった後に帰還して、細々と復興を進める方々の水と衛生、教育などの支援を続けてきました。そこへサバクトビバッタの襲来が起き、更なる被害が出たため、新たに支援をさせていただきました。バッタによる作物被害の影響から家畜である牛の乳量が大幅に減った村人の方は、支援により栄養価の高い飼料を得たこと等から十分な乳量を得ることが出来るようになったということです。
トルコでは、増え続けるシリアからの難民の方々も受け入れる地元コミュニティの方々も、インフレにあえいでいます。命をつなぐための食糧支援を、プリペイドカードを配布する、というやり方で支えました。難民として暮らす7人の子を持つシングルマザーの方は、支援によって油や洗剤等生活必需品を買うことが出来たということです。
今回はその中で、一食平和基金のご支援を受けて実施した事業で広がった、「支援の輪」についてアフガニスタン担当の松浦がご紹介します。
ジェンは、水・衛生事業を通じて、あるご家族と知り合うことになりました。サマルさんご一家です。43歳だったサマルさんは、ジェンの事業に参加するまで、人生で一度も石鹸を使ったことがありませんでした。衛生知識がなく石鹸の重要性を十分理解していなかったことに加え、ずっと経済的に厳しい状況にあり、石鹸を買うお金もなかったということをアフガニスタンの事務所長から聞いていました。
「サマルさんはご兄弟を亡くされたので、残されたご家族も養わなければいけないんだよ。」 私は返す言葉がありませんでした。
2021年8月の政変後、緊急食糧支援を行うことを決めたジェンは、ニーズ調査でサマルさんの村を訪れました。その後事務所長が言ったことに、私はまたも言葉を失いました。
「サマルさんの息子さんが、腎不全なんだ。腎臓が両方とも機能していないらしい。」 食糧が買えなくなったために、サマルさんの他の息子さんが近所を回り小麦を分けてもらっていて、学校をやめざるを得なかったことを聞いた直後のことでした。私はやるせなさでいっぱいになり、何もできない自分の無力さに失望しました。
その後、一食平和基金様から食糧配布事業へのご支援をいただけることが決まり、準備を進めていたある日、事務所長に聞いてみました。 「サマルさんご一家は、配布対象になったかしら?」 「ジェンの裨益者特定基準に当てはまるから、そのはずだよ。他の団体から既に支援を受けていない限りは。」 少しだけホッとした私に、事務所長は続けました。 「腎不全だった息子さん、手術できることになったんだ。ジェンのスタッフがサマルさん一家のことをSNSで紹介して支援を呼びかけたんだ。それで、ある人が支援を申し出てくれたらしい。」 言葉が詰まって何も言えなくなった私を、霞んだZoomの画面の向こうから、事務所長が若干心配そうに見ていました。 「本当によかった!知らせてくれてありがとう。」私はそう答えるのが精一杯でした。
ジェンの事業がきっかけで支援の輪が広がり、幼い命が救われました。自然に、人のために行動できる現場のスタッフと共に働けることを誇らしく思うとともに、ジェンの支援事業をずっと支えて下さっている立正佼成会のみなさまに、心より感謝申し上げます。みなさまのご支援がなければ、幼い命は失われていたかもしれません。
サマルさんの息子さんは無事に手術を受けることができましたが、食糧危機の状況は未だに改善していません。 ジェンはアフガニスタンで厳しい状況にある方々に、これからも寄り添い、支えていきます。 改めて、一食平和基金様のご支援に深く感謝を申し上げます。