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子供たちに自らの将来を切り開く力を

Sep 09, 2023

一食平和基金と合同で、南アフリカにおいて「困難な家庭環境にある農村部の子ども・青少年の支援事業」を実施している日本国際ボランティアセンター(JVC)の橋口です。「一食を捧げる運動」の実践者の皆さまには、日頃より温かいご支援を賜り、心より感謝申し上げます。活動についてご報告致します。

 

◇南アフリカ社会の背景事情
アパルトヘイト廃止以降、長らく日本国内の主要な報道からは遠ざかっていた南アフリカ共和国(以下、南ア)。昨今では専ら再活性化するBRICSやロシアに対して中立云々と言った話題で持ちあがることが増えました。印象としては新興国の中でもケープタウンやヨハネスブルクのような大都市を抱える「地域大国」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。事実、金・ダイヤ・プラチナ等の鉱物資源は豊富ですし、また産業構造が鉱業に依存することもなく金融や製造など多様なセクターが強靭なアフリカ大陸3位(世界39位)の経済大国です。他方、1948年から半世紀近く続いたアパルトヘイトは依然として今日の南アフリカ社会に大きな影を落とします。有色人種に対して極めて系統的に住居、教育、福祉などの機会を制限したことで社会構造は根本的に歪み、政策が撤廃された94年以降に生まれた子供の世代がいま生産年齢に達しても格差は社会に深く根ざしています。これが、南アが世界最悪の格差社会と言われる所以です。HIV-Aidsの蔓延もその一端を象徴する事象です。不十分な教育からHIVやその予防策の周知が進まず、治療費を十分に賄えない貧困層で命を落とす人が後を絶ちません。そしてその結果、多くの子供が取り残されます。南アにはこうした「エイズ遺児」が実に170万人もいるとされています。

 
 

◇「子どもケアセンター」の存在
南ア政府もこうした現状を認識しており、「子どもケアセンター(Drop-in Center)、以下DIC」を各地域に設置しています。これは子供たちが学校帰りに立ち寄り、遊んだり勉強したりしながら社会のあらゆることを学び、そして心理カウンセリングを受けることも出来るような施設で、主に村の女性たちを中心としたケアボランティアによって運営されています。但し社会開発省から運営費として供与される資金は月額1万円程度の微々たるもので、ケアボランティアの多くは研修を受ける機会にも恵まれていません。このため、DICは政策で意図されたほど効果を発揮できていない現状にあります。

ご飯を食べるDICの子供たち


 

◇活動の3本の柱
JVCは保護者の不在や貧困など、困難な家庭環境にある子供たち(Orphan and Vulnerable Children, 以下OVC)を支えるべくリンポポ州ベンベ郡チュラメラ地区のDICを中心に、3本の柱に基づいた包括的な活動を展開しています。  一つ目はDICの活動を支えるケアボランティアと保護者など地域関係者への研修です。すべて「OVCの適切なケア」という最終目標に向けたものですが、研修の内容は子供の人権、救急法、青少年らが遊びながら学べる活動の組み方など多岐に渡ります。また、地域全体でOVCを支えていけるよう保護者などの地域関係者を対象としたカウンセリング研修も別途実施しています。  二つ目は青少年の育成です。昨夏、DICに通うOVCを対象に、キャンプ形式の研修を5日間開催しました。「スカウト」のルールや野外での調理を通じて如何に仲間と協力するかを試行錯誤してもらい、更に子供の権利や責任について学べる特殊なゲームにも取り組みました。そしてOVCがこうしたリーダーシップ・ライフスキル研修を次に結び付けられるよう、研修を受け終えたケアボランティアとJVC職員とで連携し、通常の活動を綿密に検討した上でそれを実現させました。三つ目は菜園づくり研修です。まずはケアボランティアに野菜や豆類、とうもろこしの栽培方法を学んで頂きました。次に45名のOVCに対しても農業研修を行い、畑のデザイン、堆肥づくり、マルチングなどを指導しました。その後DICの敷地内に8畝の菜園を設置し、OVCが主体的にこれを管理するという活動に日々取り組んでいます。

救急法を学ぶDICのケアボランティア


菜園づくり研修に励む子供たち


 

◇参加者の声
名前:エヴァンス・ラシビューモさん
年齢: 15歳
性別:男性
コメント:自分の行動が変わったと思います。以前はDICで行われることが好きではなく、あまり活動に参加しませんでした。今は毎日DICに来て、楽しく過ごしています。特に活動プログラムのおかげで、DICがより楽しくなったからです。また、DICで年長者を敬うことの重要性を学び、母親を尊敬するようになりました。

 

名前:アンコニサホ・ダマさん
年齢:女性
性別:16歳
コメント:これまでケアボランティアの人たちの言うことを聞かず、食事のときも早く給食をもらうために小さな子どもたちを押しのけていましたが、今は変わりました。ケアボランティアの人たちを敬い、言われることを聞くようになりました。それから、小さい子たちが最初に食べられるよう、自分たちの順番を待つようになりました。自分たちでつくった菜園の野菜を食べることも楽しんでいます。