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過疎地での血圧測定が妊産婦を救う

Nov 09, 2022

一食平和基金のご支援を受け、「妊産婦死亡削減対策支援プロジェクト」を実施しました特定非営利活動法人AMDA社会開発機構(アムダマインズ)の田中一弘です。

このプロジェクトは、現地に事務所を構える英国系NGOのWelbodi Partnership(以下、「Welbodi」)と協力し、2021年1月から2022年5月にかけて取り組んだものです。

 

シエラレオネは、妊産婦死亡率が1,120人(人口10万対, 世界銀行 2017年)と世界で最も悪く、実に日本の224倍にあたります。つまり、シエラレオネでは、妊産婦の亡くなる可能性が日本の200倍以上高いということになります。その大きな要因の一つとして、妊娠高血圧症などハイリスク妊娠への予防対策と治療体制が不十分であることが挙げられます。つまり、適切な妊産婦検診の実施を通じたハイリスク妊娠の早期発見と予防的対処、医療資格者による分娩介助、リスク発生時の適切なケア(投薬、帝王切開、緊急搬送等)が提供されれば、その多くは未然に防ぐことができるのです。

そのためには、妊産婦健診がとても重要なのですが、耐久性が高く、省エネ機能を備えた質の高い血圧計が無いことから、血圧や脈拍の計測などが適切に行われていない状況にありました。水銀の血圧計は壊れやすく、正確な計測は医療従事者の能力に左右されてしまいます。また、過疎地では電気が通じていないため、良質な電池が必須であるバッテリー作動型の血圧測定器の継続的な使用は困難です。

こうした課題を解決するため、英国のKing’s CollegeとMicrolife社は、発展途上国の過疎地向けに血圧・脈拍測定器「CRADLE」を開発しました。CRADLEはUSBによる少量の電力で稼働し、かつ耐久性にすぐれています。さらに、血圧の高さをその危険度に応じて色で示してくれます(緑=正常、黄=注意、赤=危険)。まさに、シエラレオネの地方の妊産婦健診で求められていたものです。

高血圧のリスクを色で示すCRADLE

 

このプロジェクトでは、シエラレオネの中でもニーズの高い2県(ボンテ県とカイラフン県)を対象にして、保健医療施設87か所にCRADLEを234台提供し、さらに70台を、今後の故障時の交換を見据えて、両県を管轄する保健事務所に提供しました。また、現地の医療従事者42人へ研修を行い、CRADLEを正しく使用できるよう支援しました。

CRADLEの使用方法を実践形式で学ぶ看護師

 

これらの活動の結果、ボンテ県とカイラフン県にある保健医療施設では、毎年3万5千人の妊産婦に対し、高血圧のリスクを正しく把握できるようになりました。この2つの県では(妊婦数と妊産婦死亡率と死亡要因による計算から)、年間約60人が妊娠高血圧症により死亡に至っていたと考えられます。CRADLEの活用によるリスクの予防効果が最大限発揮されれば、そのうちの4割~5割(25人~30人)ほどの妊産婦の死亡を未然に防げるようになることが期待できます。

ここからは、このプロジェクトについての現地の声をご紹介したいと思います。

病院の産科科長

「私たちの病院は、Bonthe県マトゥル市にあり、保健衛生省とキリスト教系の慈善組織が共同で運営しています。しかし病院スタッフでさえ、血圧計の不足に頭を悩ませていました。足りない時は自身の私物を利用することも頻繁にありました。今回の支援を受け、院内の産科病棟に血圧計が行き渡ることによって、数多くの妊産婦に対するケアが可能になり、大変うれしく思います。」

 

診療所の看護師

「私は、保健施設に勤務していますが、同時に自分自身が妊娠しています。CRADLEの使い方を学ぶことはとてもためになります。CRADLEを使用することにより、妊産婦健診で確認しなければならない血圧や脈拍などの基礎項目を明確に知ることができます。危険兆候を示してくれるとても貴重な器具が配布されたことにより、コミュニティの妊産婦にとどまらず、妊娠中の自身の健康をしっかり確認、維持することにつながりました。」

 

妊産婦

「私は、妊娠8か月目です。数日前に、産前健診を受けるためにコミュニティにある保健施設へ行きました。そして施設でこのCRADLEに初めて出会いました。幸運にも、青色の表示が出て、異常がないことが分かり、嬉しかったです。でも助産師さんからは、来月も受診するように言われました。CRADLEの存在と機能が分かったので、次回、使用してくれなければ、なぜ使用しないのか、尋ねてみようと思います。」

 

このプロジェクトは、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けて、CRADLEの調達・輸送や保健医療従事者への研修などの活動の日程変更が必要となりました。その際、基金事務局の方で柔軟に対応していただき、プロジェクト期間を延長することで、活動を最後まで実施することができました。

一食平和基金に協力されるみなさまからのご支援により、最も厳しい環境におかれているシエラレオネの妊産婦の死亡リスクを減少させることに貢献できました。心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。