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困難な家庭環境にある子どもたちの「今」を支えながら、子どもたち自身が「明るい未来」をつくりだすことができる活動を

Jul 14, 2022

一食平和基金さまのご支援を受け、南アフリカで「困難な家庭環境にある農村部の子ども・青少年の支援事業」を実施している日本国際ボランティアセンター(JVC)の渡辺です。「一食を捧げる運動」の実践者の皆さまには、日頃より温かいご支援を賜り、心より感謝申し上げます。活動についてご報告いたします。

 

南アフリカ社会と子どもたちが置かれた状況

南アフリカ共和国(南ア)は、GDPが世界40位であるなど、様々なデータ上では豊かな国のように見えますが、実際には「世界一の格差社会」と言われ、「貧困層」が人口の約6割を占めています。若者、子どもにおける貧困が深刻で、35歳以下の若い世代で失業率が50%を超えています。また「世界最多のHIV陽性者」が暮らす同国では、大人の5人に一人がエイズに感染しており、「エイズ遺児」になる子どもが後を絶ちません。厳しい社会状況下、14歳以下の子どもの約7割が貧困下に暮らすと言われています。こなかでも黒人人口が多く暮らす農村部では、アパルトヘイト(人種隔離政策)時代に伝統的な農牧畜業が「破壊」され、収入を都市部や鉱山などへの出稼ぎに頼らざるを得ないなか、多くの家庭では、親の出稼ぎにより高齢者と子どもだけが残されています。

厳しい社会環境下、農村部の貧困家庭の子どもたちは、身近な大人から必要なサポートが受けられず、食べものへのアクセスすら難しいのが現実です。その中で将来への希望を失い、犯罪、暴力に巻き込まれる、ドラッグやアルコールに依存する、HIV感染など様々なリスクにさらされています。未来を担う子どもや若者がこのような状況にあることは、世代を超えて社会が悪循環する要因にもなっています。

「子どもケアセンター」の存在とその現状

一方で、南アフリカの村々には、エイズの影響を含めた保護者の不在、貧困など、困難な家庭環境にある子どもたち(Orphan and Vulnerable Children/孤児・脆弱な子ども。以下、OVC が集まり支え合う場として、公的な制度に基づいた「子どもケアセンター」(以下、センター。520代前半のOVCが通う)が設立されています。しかし、センターで働く「ケアボランティア(多くが女性)」のは十分な研修を受ける機会もなく、OVCのケアをするための知識やスキルを持っていません。このため、センターはその役割を発揮できていない実態があります。

■ JVCの活動:困難な家庭環境にある子どもたちの支援

JVCは、南アフリカの中でも「貧困州」とされるリンポポ州の農村部(1村)において、「ムペゴ子どもケアセンター」と連携して活動を行っています。同センターには8名のケアボランティアが常駐し、約230名のOVCが通っています。

活動では、OVCに提供するケアの質の向上のために、ケアボランティアを対象に、カウンセリング法など子どものケアに関する研修や、食べものをつくって給食を提供するための菜園づくり研修を実施しています。また、1120代前半のOVC(以下、青少年)を対象に、性教育やHIV/エイズの知識、自分たちの暮らしや権利、社会のことなどを学び、生きていくための道を自ら切り開く力をつけるためのリーダーシップ/ライフスキル研修などを実施しています。

こうした活動を通じて、OVCたちの「今」の課題に気づき、支えながら、OVCたちが自ら考え、行動する力をつけることで、OVCたちの「未来」を変え、社会の悪循環を止めることを目指しています。

 

■ 2021年度の活動を通じて見られた変化

2021年度は、ケアボランティアらが、子どもの虐待とトラウマや、カウンセリング法、HIV/エイズなどについて学びました。その結果、ケアボランティアらが、OVCの家庭訪問やセンターでの観察を通じ、以前は見逃していたOVCらの異変や問題に気づき、課題に対応し始めるようになりました。問題解決した事例もありました。また、OVCが抱える問題のなかには保護者や住民から寄せられるものもあり、地域の人たちと協力してのOVCのケア・サポートの動きも見られるようになりました。

HIVエイズ研修中にHIVウィルスの感染経路と体内への作用を復習するケアボランティア


ロールプレイングでケアボランティアと子どもを演じ、子どもの話を聞くカウンセリング法を学びました。


救急法研修では布で倒れた人を運ぶ方法を学びました。

また、菜園づくりを通じて、ケアボランティアらが年間を通じて何等かの作物を栽培、収獲できるようになりました。収穫物と周辺の関係者(学校や企業)からの寄付と合わせて、継続的にOVCへの給食を提供し続けることができるようになりました。青少年たちも、菜園づくりを学び始めています。

10代の青少年たちも菜園づくりを学びました。


センターの菜園から収獲した野菜を調理するケアボランティア


年間を通じてセンターに通う子どもたちに給食を提供することができました。

■ 活動に参加する人びとの声

 ここで、活動に参加をしている現地の方々の声を紹介させてください。

 

アウェラニ・マブラブラさん(16歳)友人に誘われて2018年からムペゴ子どもケアセンターに通っています。センターでは、ケアボランティアが宿題をみてくれたり、自分で身だしなみを整えて、きちんと生活することの大切さなどを教えてきてくれました。センターに通いはじめてから、同年代の子からのピア・プレッシャー(注)が気にならなくなり、自分で物事の判断ができるようになってきたのを感じます。JVCがムペゴ子どもケアセンターと協働を始めてからは、自分で野菜をつくり、食べものを得る方法として菜園づくりの研修を受けています。最近、畑仕事が楽しくなり、自宅の庭にも小さな菜園をつくりました。収獲するのが楽しみです。

(注)ピア・プレッシャー:「同調圧力」。同年代など周囲の価値観ややり方に合わせなければいけない、と感じてしまう心理的圧迫感。

 

*チリズィ・ネングェナニさん(ケアボランティア)
JVCと協働し始めてからムペゴ子どもケアセンターが変わり始めているのを感じます。特に、私たちケアボランティア間のチームワークがとてもよくなりました。かつては一緒に働きながらもお互い不平不満があって、お互いに尊重し合えていなかったと思います。ですが、JVCのスタッフは、そういう様子を見ながらも、私たちと辛抱強く話し合いを続けてくれました。ケアボランティアがお互いに正直に考えを共有してきたことで関係性が改善され、今ではチームワークが機能するようになりました。また、目覚ましい変化のひとつが、菜園づくりです。今は一年中、何かを栽培し、途切れることなく子どもたちに給食を提供できるようになりました。JVCとの協働を通じて様々な研修を受けてケアの内容を改善してきたことで、OVCたちの保護者との関係性もよくなりました。センターに通うOVCも、2020年度までは130名程度だったのが、今は200名を超えています。それだけ地域の人たちが、センターのことを知るようになりました。

 

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 このような変化は、地道に時間をかけて行わないとなかなか見られないものです。一食平和基金、さま、また「一食を捧げる運動」の実践者の皆さまには、継続的なご支援を賜り、心からの感謝を申し上げます。ありがとうございます。今後も、南アの人びと、子どもたちの変化を温かく見守っていただけると嬉しいです。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。