ブログBlog

灰燼に帰したカンボジアの宗教文化の復興を願って

Nov 30, 2022

一食の事業の一つにカンボジア仏教研究所への支援があります。
現地で事業を進めてくださっている担当の手束さんより報告が届きました!

———————————————————————-
世界遺産のアンコールワットで知られるカンボジアは仏教(上座部仏教)を国教とし、人々は厚く仏教を信仰しています。
カンボジアを縦断して流れる大河メコンと東南アジア最大と言われるトンレサップ湖の恵みのもと、紀元前後からインド文明の影響を受けて大乗仏教、ヒンドゥー教がもたらされ、宗教文化が花開き、9世紀から15世紀にかけて繁栄したアンコール王朝は最盛時にはインドシナ全域に跨る大帝国を築きました。しかしその後、新興のタイ(アユタヤ王朝)の侵攻により王都が陥落してしまいますが、新しく伝わった上座部仏教が拡がり、社会に深く浸透して現在に至っています。 仏教はカンボジアの精神文化の基盤であり、仏教寺院は地域の人々にとって信仰、道徳倫理、教育、文化、社会活動等の中心となっています。このように長い歴史を持つカンボジアの仏教において、1930年に国家事業として開設された仏教研究所は仏教やクメール語の伝統文化、文学等を研究・編集出版するカンボジア最大かつ最高の宗教文化センター、図書館として歴史的な役割を担っていました。 しかしながら宗教や旧文化を否定する過激な共産主義を信奉するポルポト政権下(1975年4月~1979年1月)、あらゆる分野の知識人が殺され、全ての宗教が弾圧され、多くの宗教者や信者が亡くなりました。仏教研究所も徹底的に破壊され、貴重な文献・図書は散逸し、職員のほとんどが亡くなりました。その本格的な復興は日本も参加した1993年の国連支援による総選挙、新政府の成立まで待たねばなりませんでした。 1993年から一食平和基金の支援でカンボジアの仏教の復興を支援するために仏教研究所を通じた仏教書の復刻が始まりました。さらに、1995年からは開祖様卆寿記念特別事業として、仏教研究所本体の再建事業がシハヌーク国王(当時)の勅令をうけて開始され、第1期、第2期工事を経て2002年に完成し、竣工式には日本から庭野日曠会長先生が列席されました。
 
(再建された仏教研究所)

仏教研究所と協力して出版した仏教・文化図書は数百タイトル数十万冊に上り、カンボジア全土の寺院に配布され、カンボジアの仏教の復興に大きな役割を果たしました。

 

その後、ある期間を置いて2016年から仏教研究所の活動を支援する事業が再開しました。本事業の中長期的な目的は、仏教研究所の活動の復興を図るとともに、同研究所がカンボジア国内の関連機関と協力してカンボジアの精神文化の復興および発展に貢献し、さらには海外の諸機関との交流、協力を通じて世界の精神文化の発展、平和に貢献することです。

 

 第1期事業(2016年~2018年)では「カンボジアの精神文化の復興に貢献する仏教研究所の人材が育成される」ことを目的として、仏教研究所内部の人材育成、設備機材の整備、管理運営体制の強化など活動のための基盤を整備しました。そして、宗教文化定期刊行物「カンプチヤ・ソリヤ(カンボジアの太陽)」の復刊、カンボジア語の古文書の収集・出版、図書館に新しい管理システムを導入して図書の整理と図書館サービスの向上を図りました。また、新しく月例宗教文化講演会を開催し、各活動をホームページに掲載して、宗教文化の啓蒙普及を図りました。


(復刊されたカンプチヤ・ソリヤ)

第2期事業(2019年~2021年)では、「カンボジアの社会に宗教文化の知識の普及を図ることに貢献する」ことを目的として、これまでの活動を継続するとともに、新しい活動として伝統文化研修会の開催、地方寺院の図書館活動の促進を図り、2020年1月には仏教研究所創立90周年記念式典を盛大に開催しました。

しかしその後、2月頃より新型コロナの感染が拡がりはじめ、2021年4月より首都プノンペン、更に地方都市もロックダウンされ、経済活動が落ち込み、人々の生活に大きな影響が出始めました。仏教研究所の活動も制限され図書館は閉鎖、好評だった月例宗教文化講演会もできなくなりました。しかし所長と職員の尽力でオンラインで再開し、逆にこれが功を奏して、非常に多くの人がオンラインで参加できるようになりました。

 第3期事業(2022年~2024年)では、「宗教文化普及活動を促進し、自立に向けての組織基盤を強化する」ことを目的として、これまでの活動を継続するとともに、新しい活動としてICT(情報通信技術)を活用した宗教文化の知識の普及や図書館活動を推進してゆきます。

 カンボジアは政府の迅速な対応で新型コロナのワクチン接種が東南アジアで一番といわれるほど進みました。本年に入ってからはウィズコロナとなり、感染に気を付けながらも以前のような生活に戻っています。


(オンライン月例宗教文化講演会)

仏教研究所の活動もようやく元に戻り、カンプチヤ・ソリヤなどを出版し、再び地方の寺院に配布する事ができるようになりました。都市部と違って僻地はまだ貧しく寺院には図書がほとんどない状況です。仏教研究所チームがお寺を訪問して、図書を贈呈するとどこでも大変喜ばれます。「必ずまた来てくださいと言われるのが嬉しくも、皆さんの要望に応えきれないところがつらいです」とは仏教研究所ソクニー所長の言葉です。

仏教研究所がカンボジア全土の5千カ寺、僧侶とその信者の皆さんの期待に応え、灰燼に帰したカンボジアの宗教文化復興の道のりはまだこれからも続きます。